防災訓練についての県の回答へのコメント

前記事で「佐賀県原子力防災訓練についての要望,質問書」に対する県からの回答を紹介しました.
それについての,要望・質問の提出者であるさよなら原発佐賀連絡会のコメントを発表します.(pdf形式)
http://ad9.org/pdfs/nonukessaga/y2015/cmnt-emergency.pdf

以下,テキストでも掲示します.
---------
佐賀県原子力防災訓練についての要望、質問書の県回答へのコメント

  2015年4月27日
  さよなら原発!佐賀連絡会

 さよなら原発!佐賀連絡会が2014年12月19日に提出した「佐賀県原子力防災訓練についての要望、質問書」に本年4月3日、県から回答がありました。
 私たちは、その要望書の中で、計画されている原子力防災訓練が『形式に流れることなく、誰も被曝することなく避難できるのか、避難計画の実効性を確かめて頂きたいと思います。そのために、事故の進展に沿った避難活動の全体が首尾一貫した整合性のあるものかどうか、県民の無用の被曝が避けられるかどうかが検証できるような訓練を設計して下さい』と述べました。

 昨年(2014年)4月30日の「原子力災害時の避難時間の推計結果のお知らせ」では、県は避難指示から放射能の大規模放出(福島原発事故の例)までの、23時間以内に避難ができるかを検証しています。しかし、重大事故では放射能の拡散がもっと早くなる可能性がありますし、放射線の害には閾値(これ以下では安全とされる数値)はありませんから、住民を一刻でも早く、確実に避難させることが必要になります。

 今回の県の回答は、1月24日の避難訓練実施を踏まえたものですが、何を目的に避難訓練をされたのか、訓練の成果はなんだったのかは分かりませんし、ただ訓練を行っただけという印象です。「重大事故は起こらない」「1日以内の避難が必要になることは起こらない」「50ミリシーベルト以下の放射能は健康に影響しない」と思い込んでいるのではないでしょうか。

 ICRPの2008年勧告(Publication 109)は、次のように住民との連携の重要性を指摘しています。
総合的な防護方策及びこれを構成する個々の防護措置は、可能な限り、被ばく又は影響を受ける可能性があるすべての人々と連携して取り組み、これらの人々の合意を得るべきである。(JRIA DRAFT:総括/基本原則/g項)
県は、この観点からも、もっと住民の意見を聞くべきです。

 以下、質問項目ごとにコメントします。(県の回答は別掲)

Ⅰ 訓練について
1、 PAZ(予防的防護措置準備区域)内 (約5キロ圏内)
① 在宅の要援護者(要担送)の場合、車両手配から福祉避難所、入院施設を決定して入院まで
在宅の要援護者の避難に必要な援護は様々と思われますが、訓練を実施したのが1つのケースだけでは要援護者の避難の問題は明らかになりません。もっといろんなケースで訓練すべきです。
② 保育所、小中学校へのバスの手配
既に配車されたバスではなく、バスを手配するところから訓練を始めなければ、配車にどれだけの時間が必要なのか分かりません。
③ 集合場所への全員(要援護者を含む)が集まる訓練(時間を見る)
バスで避難する人全員が集まるのに必要な時間を計り、全員集まったことの確認方法等を検証しなければ、訓練の意味はないのではないでしょうか。
④ 深夜に停電した場合の住民への避難指示
県のやり方では、全員を直ちに避難させることはできそうにありません。
⑤ 土砂災害等で孤立した地区の避難
孤立した地区の避難は何時間遅れるのか、その場合の放射線防護をどうするのか、を考えられていません。原子力災害だという認識が必要です。

2、 UPZ(緊急時防護措置準備区域)内 (30キロ圏)
① 屋内退避中の安定ヨウ素剤の配布と模擬服用(3歳未満の乳幼児を含む)
全く訓練されていません。課題は残ったままです。
② モニタリングを開始して避難地域を特定、住民に周知して避難開始、全員避難の確認
部分的な訓練を切り離して行っても、時間的に連続して訓練しなければ、[1]全員が避難を開始するのに何時間かかるのか分かりません。
③ 避難先が明らかに放射線量の高い状況を踏まえてルート変更を指示し、全員に周知する
この訓練は行われていません。実際にルート変更を行なって問題点を把握すべきです。
④ 「放射能が測定される段階で避難では遅い」と考えられているので、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を利用した避難訓練を行う
放射能プルーム(気塊)が来る前に避難する訓練は行われていません。被曝を避けなければならないという考えが、そもそもないようです。
⑤ 医療機関(重篤患者を含む)の1日以内の避難
重要な医療機関の避難訓練は行われていません。

3、 30キロ圏外
① プルーム(放射能の雲の塊)飛来時、モニタリングから地域を特定した屋内退避の周知
② 安定ヨウ素剤の配布と模擬服用(3歳未満の乳幼児を含む)
③ 福島県飯館村の面積を想定した(要援護者を含む)1週間以内の避難先の指示、周知の徹底
以上のどの訓練も行われていません。規制委員会が原子力災害対策指針改定案を示していますが、放射能の拡散を予測するSPEEDIも利用せず、30キロ圏外は安定ヨウ素剤も準備されないなど改定案は非常に後退したものになっています。新潟県は3月26日、改定案への意見を国に提出しています。佐賀県も県民の安全を守るためには、再稼働を急ぐ国の方針を鵜呑みにせず、改定案の内容について検討することが必要です。

4、 最悪(不測事態)シナリオを想定した全県民の170キロ県外への避難のシミュレーション
最悪シナリオでは全県民の170キロ圏外への避難が想定されますが、県は万が一には最悪の事態が起こることを想定していて、「一定期間の間に避難先を確保して避難していただくことになる」と回答しています。しかし、その一方で,このような事態についての「シミュレーションを実施する考えはありません」とも述べていて、この問題を本気で考えているとは到底思えません。最悪事態でも避難できるから問題はないとする県の考えは、県民の苦行難行を、また受け入れ地の大混乱を前提としており、決して認められるものではありません。県は、170キロ圏外へ避難するような最悪事態が想定されても再稼働が必要な理由を、県民に説明するべきです。

5、 複合災害を想定した、また、抜き打ちの避難訓練
複合災害も想定せず抜き打ちの避難訓練も行わなければ、避難の実効性を確認したことには到底なりえません。何時になったら実効性のある避難計画ができるのでしょうか。

Ⅱ 避難計画について
1、 緊急時のモニタリングデータおよびその評価結果を即時県民に公表するシステムを構築してください。
佐賀県の放射線モニタリングでは、30キロ圏内の結果しかわかりません。佐賀県全域を網羅するシステムが必要です。
緊急時のモニタリング結果を規制委員会がホームページで速やかに公表するシステムは、どのようなもので、いつできるのかを明らかにしてください。
2、 事故が起こった場合に県民が本当に無事に避難できるのか、実効性を検証、確認してください。さらに、避難計画の実効性について公開討論会を開いて県民の理解を深めてください。
事故での被曝を避けるためには、県民が避難計画についてどこまで理解が進んでいるか調査する必要があります。また、公開討論会を開いて問題点を洗い出し、理解の促進をはかる必要があります。

 人口密度が高く山がちな地形のわが国では、原発の重大事故に対する十分な避難計画など作りようがないことは、すでに明らかです。したがって原発の再稼働など不可能なこともまた明白です。しかし玄海原発の燃料プールには50万本を超える膨大な数の使用中・使用済みの燃料棒が貯蔵されており、最悪の場合、再臨界を起こせば「裸の原子炉」となります。これが存在する限り、原子力災害に対する備えは必要です。

この記事へのトラックバック