山口知事に質問・要望書を提出

DSC_7558w1000.jpgさよなら原発佐賀連絡会は,本日県庁で,山口知事宛の質問・要望書を提出しました.原発の安全性,規制基準,避難の現実性など,多岐にわたる詳細なものです.

以下にその全文を紹介します.
--------



          2015年8月7日

佐賀県知事 山口 祥義 様

       さよなら原発!佐賀連絡会
       代表 豊島 耕一

山口知事の原発問題の考え方についての質問要望書

 県民の安全な生活を守るためのご尽力に感謝申し上げます。
 国と電力会社が原発の再稼働を進めようとしている現在、佐賀県知事は玄海原発の再稼働の最終判断をする事実上の権限を持っています。知事の判断は、県民のみならず多くの人の命と生活を左右する問題に関わります
 そこで、以下のように質問と要望を致しますので回答を文書で9月10日までにお願いします。なお、併せて知事または担当の責任者との質疑応答と意見交換の場を設けてくださるようにお願いします。

1.知事の「安全第一が原発問題に対する基本姿勢」について
(1)知事は、平成27年4月17日付け佐賀県知事あて要望・質問書への回答で、規制委員会田中委員長の「科学的に100%安全、要するにゼロリスクはないんだということを技術にはそういうことを言っているわけです」という言葉を引用されました。まさにそのとおりで、確率の問題だと思います。
では、「原子力規制委員会により安全性が確認され、住民の理解が得られた場合には、原子力発電所の再稼働は必要」との県議会での知事発言の安全性の確認とは、例えば福島第一のレベルの事故で、どれだけの事故の発生確率までを「安全」と見なされるのか、お尋ねします。
また、その判断基準や根拠も示して下さい。

(2)「安全第一」の「安全」の意味についてお尋ねします。
a 原発事故が起きても県民は被曝することはない、または、年間被ばく許容線量1ミリシーベルトは守られるという意味でしょうか。
b 放射能・放射線の健康影響(人体にとってどこまで安全なのか)についての県としての理解を公表してください。再稼働の判断に放射能の害についての認識は重要だと考えます。
(参考)放射線による健康影響に「閾値(これ以下では安全という値)はない」とされています。福島の子どもたちの甲状腺がんは3月末で127人が「悪性ないし悪性疑い」と診断されています。5月18日、福島県民健康調査検討委員会は、子どもたちの甲状腺がんは事故前と比べて「数十倍のオーダーで多い」と発表しています。大気中に放出された放射性物質の総量は、ヨウ素換算で約900ペタ(兆)ベクレル、チェルノブイリ事故の約6分の1です(国会事故調報告書4-1)。福島原発事故で放出された放射性セシウムは、広島原発の168倍と公表されています。放射能の放出量から考えると将来的な健康被害が心配されます。

2.再稼働の必要性について
 知事は再稼働は必要とお考えですので、その根拠をお尋ねします。
(1)需給と安定性
原発は2年近く停止していますが、電力は安定供給されています。火力発電所の数度の故障による停止にもかかわらず、電力融通等によって一度も電力不足による停電はありませんでした。太陽光発電の受け入れを制限するほど供給に余裕があると考えられます。原発は一斉に停止することがあるので(2003年東電の炉心の燃料集合体を支えるシュラウドのひび割れ隠しが発覚し全17基が停止、2007年中越沖地震で柏崎刈羽原発全7基が停止、2011年福島原発事故ですべての原発が停止)、安定的な供給源とは言えないのではないでしょうか。

(2)焚き増しコスト
政府は原発停止による化石燃料の焚き増しコストについて3.7兆円と試算していますがこれは過大評価の疑いがあります。
吉岡斉氏(九大教授)は、第1に省エネ、節電等による電力需要減約1000億キロワット分(原発全体の発電量の3分の1に相当する)を差し引くと3分の2の2.4兆円、第2に稼働しない原発のための不要な核燃料コスト、処理コスト、運転維持コストの合計1兆円を差し引くと1.4兆円にしかならないとしています。さらに、原油、ガス価格は、昨年7月から3分の2程度に下落しています。九州電力は7月31日、2015年4~6月期の第1四半期連結決算は純利益が188億円で6期ぶりの黒字となったと発表しています。
 電気料金の上昇は、民主党政権時代の「国民的議論」の4グループの検討で原発ゼロでも再稼働でも電気料金への影響はあまり変わりがなく、原発依存でも電気料金は上がると予想されています (注1)

(3)温暖化対策
 人為的二酸化炭素による温暖化説の温度上昇予測にはあいまいさがありますが、温室効果ガスの排出についても「国民的議論」(注2)で検討済みであり、再生エネルギーを導入するという追加対策を行えば、原発依存と変わらない削減策が可能とされています。
また、原発を再稼働させなくても40%の削減は可能との意見もあります。(明日香寿川東北大教授、7月7日佐賀新聞「Discuss」)。

(4)原発地元の経済対策
原発廃止に伴う雇用問題など地元の経済対策については、産炭地域振興臨時措置法等の例もあり、行政の対応でカバーすべきものではないでしょうか。

 なぜ再稼働が必要なのか、他に方法がないのか、具体的に説明してください。
 なお、原発が稼働しないことでどのくらいの地元経済への影響が生じているのか、県の具体的な分析も知りたいと思います。

3.新規制基準そのものの問題点及び審査の問題点
新規制基準による審査については,以下のように数多くの重大な欠陥や問題点があります.したがって仮にこれに合格したとしても「安全は確認された」ことにはならないと考えられますが、知事はどのようにお考えでしょうか。

(1)福島原発の事故原因は、地震の影響等を含めて解明されていません(田中三彦『科学』4月号)。

(2)審査結果は、工事認可の内容が大量に白抜きされるなど、詳細が公開されているわけではありません(後藤正志「川内原発工事認可について」2014年11月24日)。

(3)原子力立地審査指針の肝心な部分が新規制基準では適用されないこと(注3)になり、大量の放射能を放出する事故の可能性があっても原子炉の設置が可能となりました。

(4)EUR(欧州の原子力安全審査)と比較すると、過酷事故対策では国際的設計思想(無動力、オートマチック、恒設、予測・積極対応、実践主義)から乖離し、航空機落下対策としての頑強な屋根さえないなど、重大事故が起きることを安易に認める規制基準になっています。(佐藤暁、「原子力規制のグローバルな状況と日本」、原子力資料情報室原子力学習会資料 2014年4月18日)

(5)規制委員会は避難計画を審査しません。これは例えば、米国規制委員会(NRC)及び連邦緊急事態管理庁(FEMA)という専門機関が避難計画の実効性を審査するのとは大きく異なります。

(6)加圧水型原発のフィルター付きベント設備(西欧諸国では1980年代にほとんど設置されている)や特定重大事故対処施設の設置を5年間、猶予しています。この間に事故が起こらない保証はありません。

(7)玄海原発の地下水は1日当たり200トンですが、汚染水対策がありません。

(8)格納容器破壊時に放射能の拡散を止めるとされる九電の放水砲は、玄海原発に毎時600トン放水できる3台が配置されていますが、放水角度も人がハンドルを回して操作しなければなりません(筒井哲郎、「水鉄砲で火の粉を落とす形骸化する規制審査』『科学』2015年5月号506ページ)。東京電力は、毎時1200トン放水できる『大容量放水設備』5組を配備すると発表しています(「東電柏崎刈羽原発に大放水車」、時事通信、7月9日)。しかし、放水で空間への放出を止めることは困難で、希ガスなど水に溶けない気体や、微粒子は水で捕捉できません。

(9)九州電力の大破断LOCA(冷却材喪失事故)+全交流電源喪失+ECCS(緊急炉心冷却装置)注水失敗の過酷事故対策で規制委員会は注水作業の遅れを10分遅れまでしか想定せずに規制基準に適合としていますが、35分遅れると重大事故は防げない恐れが高まり(注4)、放射能の大量拡散が予想されます。35分の遅れを審査しない審査は不十分です。

4.専門委員会の設置
  玄海原発の再稼働の判断のためには、国と九電が提供する情報をただ受け取るだけではなくて、県が独自に専門家の議論にかけて分析し検証する必要があるのではないでしょうか。

5.避難計画について
  防災の基本は、最悪の場合を想定して準備をしておくこととされています。すなわち、「最新の科学的知見を総動員し,起こり得る災害及びその災害によって引き起こされる被害を的確に想定するとともに,過去に起こった大規模災害の教訓を踏まえ,絶えず災害対策の改善を図る」べきです(防災基本計画第1篇第2章 平成26年1月中央防災会議)。
しかし、国の原子力災害対策指針は想定を甘くし、住民の防護を後退させる方向で改定されています(平成27年4月22日全部改正等)。

(1) 佐賀県は避難計画を福島原発事故で1号機が23時間後に水素爆発したことを目安にされているようです(注5)が、九電が想定する最悪事故はもっと過酷です。すなわち「大破断LOCA(冷却材喪失事故)+全交流電源喪失+ECCS(緊急炉心冷却装置)注水失敗」というものです。この場合事故進展を食い止めることができなければ、2,3時間のうちにメルトダウンして水素爆発などを起こして大量の放射能が放出されることになります。この重大事故を想定して避難計画を作成する必要はないのでしょうか。

(2) 福島県浪江町請戸地区では、津波の被害を受けた人の救助活動が行われていましたが、原発事故で避難指示が出されたために救助活動が断念されました。うめき声や物をたたく音がしていたので生存者がいたはずといわれていましたが、4月に再開された捜索活動では沿岸部で180体の遺体が発見されています。複合災害の場合、高い放射線レベルのため救助できない可能性がありますが、このような場合、佐賀県知事として救助を待つ人たちにどのように対応するお考えでしょうか。

(3) 兵庫県は福井県の4原発で福島原発事故と同様の事故が起きた場合の同県への放射能拡散予測を2013年4月25日に発表し、50キロ離れた篠山市でも1歳児の甲状腺被曝線量が7日間で、安定ヨウ素剤の服用が必要となる国際基準(50ミリシーベルト)の3倍を超えた、としています(注6)。
岐阜県は2012年、敦賀原発事故を想定した放射性物質の拡散予測を独自に実施し(最も広範に外部被曝の影響が出るケースでは、年間最大110ミリシーベルト)(注7)、今回、年間の外部被曝実効線量が20ミリシーベルトを超えるUPZ外(30キロ圏外)の地域の避難のシミュレーション結果を7月6日、発表しています。
この2県のシミュレーションでは30キロ圏外でも健康被害が心配される数値が出ていますので、佐賀県も独自にシミュレーションを行って、UPZ外の避難やヨウ素剤の服用についても検証すべきではないでしょうか。

(4) 県の環境放射線モニタリングシステムを、市町に設置されている測定器等も利用して、佐賀県全域を網羅したリアルタイム表示に改善してください。
滋賀県は移動型の測定器と情報共有システムを整備して放射線の測定態勢を強化すると報道されています(5月3日京都新聞「放射線の測定態勢強化、滋賀県、近隣府県とデータ共有」)。このような移動型の増強も検討してください。

(5) 避難時のSPEEDIの利用について
「防災基本計画の改定を踏まえた今後の対応について(平成27年7月22日)原子力規制庁・内閣府政策統括官(原子力防災担当)」によって、関係自治体の依頼に基づき、SPEEDIを避難計画に利用できるように変わりました。
 国にSPEEDIを県が避難に活用できるように依頼してください。
 被曝を避けるためには早期の避難が必要です。実測値を使った判断では被曝は避けられないので、SPEEDIを使った拡散予測を活用することが不可欠です。しかし、SPEEDIでも、あらかじめ正確に予測することができない(「SPEEDI等の予測手法の利用について」平成27年7月原子力規制庁)のであれば、全県民が被ばくしないですむ方法を考えてください。
 福島原発事故では、原子力安全・保安院は2011年3月11日から16日にかけてSPEEDIを使って計45回放射性物質の拡散状況を予測しています。12日午前3時53分に、「12日正午にベントを開始」の場合は放射性物質が浪江町や飯舘村のある北西方向へ、かなり広範囲にまき散らされることを予想しています(大鹿靖明『メルトダウン』文庫版97ページ、講談社)。 もしこの情報が生かされていれば,多くの住民の被ばくが避けられ,または大幅に軽減されたはずです.

(6)愛媛県は伊方原発の過酷事故を想定した広域避難のデータベースシステムを作り、運用を 始めたと報道されています(4月25日毎日新聞地方版「伊方原発避難情報パソコン地図に、事故想定県がデータベース、全国初、30キロ圏で運用開始」)。佐賀県でも同様のシステムが必要ではないでしょうか。

(7)安定ヨウ素剤の配布
全県民への事前配布と丸薬を飲めない乳幼児が確実にヨウ素剤を服用できる体制を確立してください。
福島原発事故の際、福島県立医大では、医療関係者とその家族はヨウ素剤を服用していますが、一般住民には服用を実施しませんでした。このようなことが繰り返されないようにしてください。

(8)人の除染の問題
スクリーニングの基準値、大口径GM管サーベイメータによる13000cpm(表面汚染濃度の測定値、cpmは1分間あたりの計数率)という値は汚染の拡大防止や甲状腺がんなどの確率的影響の防止のために決められたものです。しかし、福島原発事故では、10万cpmを超えた人が102人確認(毎日新聞{いのちを守る防災}2015年6月3日記事参照)されていますが、混乱と、温水の準備等がなかったために基準以下に下げる除染は困難だったようです(『科学』2015年3月号296ページ)。今年6月7日伊方原発の訓練では、自衛隊が特設シャワーで除染する訓練をしています。佐賀県にもウエットティッシュだけではなく、特設シャワーのようなものを準備しておく必要があるのではないでしょうか(注8)。

(9)30キロ圏外の対策
  避難計画を作成して避難先を確保し、ヨウ素剤を事前に配布するようにしてください。

(10)長期避難の基準
事故が起こった場合、年間の被曝量が法律の基準である1ミリシーベルト以下に下がるまで(福島で適用されている20ミリシーベルトではなく)、避難指示が解除されないこと、また、その間、生活が保障されること(「避難の権利」が保障されること)を約束してください。

(11) 佐賀県の避難計画を、専門家を含む第3者委員会で検証してください。

6.使用済み燃料の問題について
経産省の担当者は核のゴミを「将来世代に先送りしてはいけない」とシンポジウムで述べていますが、確実な処分の方法はない(知事が言われる「国が責任を持って決めること」ができない状態)のですから、再稼働すれば、ますます核のゴミを増やすことにならないでしょうか。
  ちなみに、静岡県の川勝知事は、「使用済み燃料の行き場がない状況で、再稼働はすべきでない」と述べています。

7.佐賀県国民保護計画武力攻撃原子力災害について
 1984年外務省が作成した「原発攻撃被害報告書」によると、原発が攻撃された場合最悪1万8000人が被ばく死すると試算されています(2015年4月8日東京新聞「被ばく死最悪1.8万人、原発攻撃被害84年極秘研究」)。
 原発はミサイル攻撃に耐えられる構造ではありません。
 再稼働すれば武力攻撃原子力災害もありうると考えられますが、知事はこのことをどのようにお考えでしょうか。

8.タウンミーティングについて
 知事は、政策決定に際して「県民の意見を聞く」ことを重視しておられると伺っています。是非ともタウンミーティングを開催して、県民との意見交換を行ってください。
新潟県泉田知事は5月12日「原子力発電の安全確保」をテーマに県民とのタウンミーティングを開催しています。この事例は多いに参考になるのではないでしょうか。(「 刈羽村で知事とのタウンミーティングを開催しました(注9)」

9.川内原発の重大事故による有明海汚染の可能性について
 玄海原発に先行して鹿児島県の川内原発の再稼働が行われようとしていますが、もしこの施設が重大事故を起こして汚染水が発生した場合、九大のシミュレーションによると、海流により有明海が汚染される恐れがあります(九大の2011年07月07日の報道発表.別紙および下記アドレス参照)。
 知事におかれましては、有明海の環境を守る責任において、川内原発の安全性と再稼働の是非について九州電力に対して何らかの発言をされるお考えはありませんか。

九大の報道発表:「川内原子力発電所からの仮想的な放射性物質流出に対する海洋拡散シミュレーションを実施」
http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2011/2011-07-07.pdf
以上

--------
(注1) 大島堅一『経済と再稼働問題』原子力市民委員会学習会3月9日、「コストの抑制、空洞化防止 ? 話そう"エネルギーと環境のみらい」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/sentakushi/scenario/data4.html
(注2) エネルギー・環境に関する選択肢 平成24年6月29日 エネルギー・環境会議 資料1-2 
14ページ http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120629/20120629_1.pdf
大島堅一『経済と再稼働問題』資料原子力市民委員会学習会、3月9日 
(注3)過酷事故対策の一部である格納容器ベント時の放射性物質の放出量制限を理由として、立地審査指針の離隔要件及び集団線量の要件が捨て去られた。「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回会合資料」
(注4) 西日本新聞2月16日、井野博満、滝谷紘一「不確実さに満ちた過酷事故対策」、『科学』2014年3月号 http://www.ccnejapan.com/archive/2014/201403_CCNE_kagaku201403_ino_takitani.
(注5)「原子力災害時の避難時間の推計結果をお知らせします」消防防災課2014年4月30日
https://www.pref.saga.lg.jp/web/var/rev0/0157/4618/kekkagaiyou.pdf
(注6) 安定ヨウ素剤予防服用の一般的基準 (50 mSv) の根拠についてー安定ヨウ素剤の投与基準に関する国際機関の見解(第28 回被ばく医療分科会 参考資料)平成23 年12 月7 日、原子力安全委員会事務局
(注7)「平成24年度岐阜県放射性物質拡散シミュレーション結果について」
(注8)http://dailynewsagency.com/2011/03/16/nuclear-decontamination/
(注9)http://www.pref.niigata.lg.jp/kouhou/1356812314832.html


連絡先 杉野ちせ子 携帯:xxx-xxxx-xxxx、 住所 840-0844 佐賀市xxxxxxx

この記事へのトラックバック